ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



……そりゃあ、見せないようにしてるからな。

見せてしまったら、最後だ。

少しでも俺がそういう素振りを見せてしまったら、……もう、戻れなくなる。


画面を操作して、文字を打つ。


〈今日遅くなる〉


メッセージを送信すると、不貞腐れたあいつの顔が頭に浮かんできた。


……あいつ、寂しがるかな。


できるだけ、飯をひとりで食わせることはしたくなかった。

けれど会社の付き合いも、疎かにするわけにはいかない。

俺は少し考えて、


〈ドラマ録画しといて。先に見るなよ〉


とさらにメッセージを付け足した。


……なんて。

寂しいのは、もしかしたら俺のほうなのかもな。


すっかり深みにハマって抜け出せなくなっている自分を、心の中で嘲笑う。


〈わかった!〉


そう返事が届いたのを確認してから、俺は再びパソコンへと向き直った。