おーちゃんと初めて出会ったのは、わたしが小学六年生、……そしてわたしのお姉ちゃんが、丁度大学生になったときの春だった。
7つも年の離れたお姉ちゃんと二人暮らしだった当時は、男の人と関わることが少なくて、お隣に引っ越してきたおーちゃんに、強い苦手意識を抱いたことを覚えている。
無愛想な人。
——それが『お隣さん』である、おーちゃんの第一印象。
すれ違っても目すら合わせない彼に、「挨拶は大事」と育てられてきたわたしが、挨拶をしたことは一度もなかった。
「……こんちわ、妹。お邪魔してます」
だから、ある日学校から帰ったわたしが、リビングに座るおーちゃんにそう言って出迎えられたときは、思いっきりしかめっ面をしてしまったんだ。
ぶわはっ、と吹き出すおーちゃん。
相当嫌われてんな、俺——おかしそうに言ったそれが、初めて見たおーちゃんの笑顔だった。
同じ大学で、偶然同じ学部だったらしいお姉ちゃんとおーちゃんは、わたしの知らないところでいつの間にか仲良くなっていた。
気がついたらわたしたちの部屋で、一緒に食事をとるのが当たり前になって。
中学生になったわたしの勉強を、おーちゃんに見てもらうのが当たり前になって。
わたしの視線の先には、おーちゃんの笑顔があるのが、当たり前になって……。
『お隣さん』だったおーちゃんは、わたしの『好きな人』に当たり前のように変わっていった。


