康晴の手が、ピタリと止まる。
「……人ん家の玄関で、なにしてんの」
低い声が聞こえて、濡れた目で見上げると、おーちゃんが静かにわたしたちを見下ろしていた。
その表情は、逆光でよく見えなかった。
「あ……」
康晴の手が、わたしの体からゆっくりと離れた。
おーちゃんはこちらに近づいてくると、わたしの上に覆いかぶさっている康晴のシャツを乱暴に掴んで、そのまま引き剥がした。
いつの間にか床に転がっていた、黒いバッグを拾い上げると、康晴に押し付ける。
その強さに、康晴の体が力なくドアのほうへとよろけた。
「二度と俺の家に入るな」
怒りと苛立ちを含んだ声が、静かに響いた。
康晴はぐっと唇を噛み締め、わたしを見る。
その表情が、泣きそうに歪められて、
「……すいませんでした」
絞り出すように言った康晴は、なにかを堪えるように出て行った。


