ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


わたしは、足を踏み出した。

足元から走った鋭い痛みに、ほとんど倒れこむ形で、ノブを掴む。

そのまま勢いよく、ドアを開いて——、


「康晴、待って……!」


廊下へ飛び出す前に、すぐ目の前に立っていた誰かとぶつかりそうになった。

寸前でブレーキをかけてよろけたわたしの腕が、がっしりと掴まれる。

驚いて見上げたところで、あ、と声がこぼれ落ちた。


「——おーちゃん……」

「お前の友達なら、もう下りてったよ」

「あ……」


ひょこ、と廊下の向こうを覗いても、もう誰もいなかった。


……間に合わなかった……。

……次、会ったとき、絶対話そ……。


しゅんと視線を落として、自分が靴下のままであることに気がつく。

ドアに寄りかかりながら、痛くないほうの足で玄関の中へ足を伸ばして、ローファーを引っ掛けて持ってくると、つま先だけ雑につっこんだ。