ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


エレベーターから降りたあと、まさか康晴の目の前で305号室に入るわけもいかず、わたしは304号室で足を止める。

康晴は足を気にして、わざわざ玄関まで付き添ってくれた。

肩に掴まりながら鍵を開けて、ドアを開けて、靴を脱がせてもらって……。


「ほんと、なにからなにまでありがとう……」

「いいって」


わたしの足から靴を抜き取った康晴は、ふと、かがんだまま動きを止めた。


「……どしたの?」

「いや……なんでもない」


言いながら、立ち上がってわたしに向き合う。


「あのさ」

「ん?」

「……また、困ったことあったら、俺になんでも言ってよ」


康晴は眉根を寄せて、真剣な顔をしていた。


「俺にできることがあるなら、……力になるからさ」


コハク色の瞳が、真っ直ぐとわたしに向けられる。

向けられた優しさが、チクリとわたしの胸を刺した。