ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



「はい」


返事をすると、少し大きめの学ランを羽織った女の子が、ひとり顔を覗かせた。

上履きの色から、彼女が1年生だとわかった。

女の子はわたしに軽くお辞儀をすると、キョロキョロと室内を見渡す。


「五十嵐先生なら、テントのほうだと思うよ」

「あ、はい……」


わたしの言葉を聞いても、女の子が保健室から出る気配はなかった。

不思議そうに見ていると、


「あの、先輩……。騎馬戦のとき、……山名先輩に、だっこされて運ばれてた人ですよね」


……だっこ……。


わたしは思わずその言い方を訂正したい衝動に駆られたけれど、ぐっと我慢した。


「えと、そうみたいだね……」


おかしな返事になってしまったけれど、意識がなかったんだからしょうがない。


……やっぱり、かなりの人に見られてたのかな……。

うう、恥ずかしい。

だけど、なんでそんなことわざわざ……。


と、そこまで考えて、わたしはあれ、と思った。


もしかして、この子——。