マトリカリア 304号室——去年とはカバーの色が違う、もらったばかりの生徒手帳に自分の住むマンション名と部屋番号を書き終えたところで、わたしは思わず、ボールペンを持つ手を止めてしまった。


「……えっと。今、なんて?」


聞き間違いかもしれない。
そう思って、目の前に座る同級生、山名康晴(やまなこうせい)をじっと見つめた。


「……だから、俺、お前のこと好きなの」


……どうやら、聞き間違いじゃなかったみたいだ。



高校2年生になって、初めての登校日。

去年同じクラスで仲良くなった康晴とは、残念ながらクラスが別れてしまっていた。
一緒にいると笑いは絶えないし、気を使わないでいられる数少ない男の子の友達だから、わたしもすごくショックだった。


だけど。


好きとか、そういう対象としては、考えたことなかった……。


ホームルームが終わるなり「話がある」とわたしのクラスまでやってきた康晴は、教室から人がいなくなるまで、確かに様子がおかしかった。


まさか……こんなことを言われるなんて。


ふたりきりの空間での沈黙は、とても重たい。

どう答えればいいかわからなかったわたしは、少し迷って、わざと明るく切り出すことにした。