不意に声をかけられて、顔を上げると知らない男の人がいた。
スーツを着て、眼鏡をかけていて、清潔そうな印象の大人の男性が目の前に立っている。

どこかで会ったことあったかな?
首をかしげながら考えたけど、記憶の中から同じ顔を見つけることはできなかった。


「どちらさまでしょうか?」


私の問いかけに、男の人は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐにニコッと優しそうに笑った。


「忘れられちゃったか。ほら、お父さんの仕事で……」

「父のお知り合いでしたか。ごめんなさい、私ったら覚えてなくて」

「いいんだ。それより、こんな時間に、こんなところでひとりでどうしたんだい?」

「それは……」


言い淀む私の足元を、男の人がちらりと見る。
まずいと思ったけどもう遅い。