「剣馬。おじいちゃん、何も言わなかった……?」

「新造さまは、放っておけ、と」

「やっぱりね。いいのかな? 会長さんの忠犬が、命令違反なんじゃない?」


剣馬は苛立たし気に狼くんを睨んだけど、何も言わなかった。
つまり、本当に剣馬の独断だったのだ。


「行こう、仁葵ちゃん」

「う、うん……」


狼くんに肩を抱かれたまま、一緒に教室へと歩き出す。

そっと振り返っると、剣馬は私を見たままその場に立ち尽くしていた。
なんだか置きざりにされる犬みたいに見えて、ちょっとだけ心が痛む。


「仁葵ちゃん。隙を見せちゃダメだよ」

「うん……わかってる」

「あと、仁葵ちゃんは俺だけ見てるって約束でしょ?」

「わ、わかってるってば」

「ほんとかなあ」


疑わしそうに私を見てから、狼くんが小さく笑う。
家でも学校でも、自分のペースを崩さない狼くんを見ていたら、私も自然と落ち着いてきた。