「仁葵」
なんて返したらいいのかわからずにいると、背後から名前を呼ばれた。
振り返ると、そこには冷たい笑いを浮かべた剣馬が立っていた。
こ、この顔は、剣馬がめちゃくちゃ怒ってるときの顔だ……!
思わず狼くんの背中に隠れると、ますます剣馬の機嫌が急降下していくのがわかった。
「スマホの電源切りっぱなしにしてんじゃねぇ」
「け、剣馬……」
「隠れてないで説明しろ、仁葵」
こういう、剣馬の命令口調で偉そうなところがイヤだ。
ああしろこうしろって、おじいちゃんみたいで。
「もう説明することなんてないもん。電話で話したのが全部だよ」
「あんなもん、説明の内に入らないだろ」
「おじいちゃんがあきらめるまで、家には帰らない。それまで彼氏の家にいる。……ちゃんと説明したじゃん」
「その彼氏ってのは、まさかそいつのことじゃないだろうな」


