「ええ? ……狼くん、包丁使える?」
「……その太いキュウリを半分に叩き切るくらいはできると思う」
狼くん、これはキュウリじゃなくてズッキーニです。
キッチンが血の海になりそうな予感がして、私は狼くんをリビングへと追い返した。
去っていく背中がしょんぼりした犬に見えたのは気のせいだろうか。
狼くんのリクエストで、和食を作ることにした。
この辺りの外食ではあまり食べられないらしく、和食に飢えているらしい。
ハウスキーパーさんが定期的に入っているおかげで、料理道具や調味料は充実していた。
出来上がったのは、秋刀魚の竜田揚げに、夏野菜の豚汁、いんげんの胡麻和え、そして狼くんがどうしても食べたいと言った、だし巻き卵。
うん。我ながらがんばったんじゃない?
テーブルに並べていくと、おとなしく『待て』をしている狼くんの目がどんどん輝きを増していった。


