本当はお母さんに連絡しようと思っていたけど、仕方ない。
画面をタップして、スマホを耳に当てる。
「もしも――」
『やっと出たな。バカ仁葵、いまどこにいる?』
あきれたっぷりの声が聞こえてきて、思わずムッとしてしまう。
幼なじみが家からいなくなったっていうのに、もっと心配できないのかな。
『仁葵がいないって、青葉さん半泣きで俺に連絡してきたぞ。何やってんだよバカ』
青葉はお母さんの名前だ。
お母さんに心配かけちゃったか。でも、おじいちゃんから守ってくれなかったんだから、お母さんにも反省してほしい。
「剣馬。私、家出した」
剣馬の名前を出した途端、隣りの狼くんが反応を示した。
会話を聞こうとするように、スマホに耳を近づけてくる。
つまり、私にぴったりくっついていて、近い。
ソファーが沈んで、体温が、吐息が……!


