それこそ赤ん坊の頃から、誰より傍で仁葵を見てきた。
代々花岡家に仕える家に生まれたのもあり、俺は生涯を仁葵に捧げると決めていきてきたのだ。

それなのに、仁葵はそんな俺の覚悟など知りもせず、飛鳥井なんていうナンパ野郎とあっという間に結婚を約束してしまった。

いや、わかっていた。
頭ではわかっていたんだ。

仁葵は花岡家のひとり娘であり、いつか然るべき家柄の男と結婚し、子を作り、家庭を築いていくことを。
そしてその相手が、決して俺ではないことも。

だがそれはもっと先の話になるはずで、俺は覚悟なんてしておらず、情けなくも激しく動揺してしまった。

飛鳥井のことを調べずにはいられなくなり、婚約者らしい幼なじみの女の存在を知ったときには、何がなんでも仁葵を渡すものかと強く決意したほど。


あんな最低なナンパ野郎に仁葵を奪われるくらいなら、いっそ俺が……――。