一瞬で機嫌がよくなったけど、仁葵ちゃんに近づいていく男の影を見つけて今度は一気に機嫌が急降下した。


「は、花岡さん。それ重そうだね」


(何だあいつ……)

日焼けした肌、短く切りそろえられた髪の体格の良い男。
明らかに運動部といった見た目のそいつは、へらへら笑いながら仁葵ちゃんに話しかけている。
クラスにあんな奴いただろうか。


「日直の仕事?」

「そうなの。でもそんなに重くは――」

「おおお俺! 運ぶの手伝おうか!」


見てるこっちが恥ずかしくなるくらい、下心が見え見えだ。

俺は内心舌打ちする。
仁葵ちゃんはちょっと鈍感なところがあるから、あの男の下心になんて気づかないだろう。

先週家出をしたときも、変態オヤジの誘いに疑うことなくついて行こうとしていたくらいだし。