「……仁葵ちゃん」
「……はい」
「外に、出てみない?」
微笑みを浮かべる彼の背後。
そこに広がる緑の庭園に目をやって、私は小さくうなずいた。
料亭を出て、このホテル自慢の日本庭園を、彼の後ろについて歩く。
少し前までは、手を繋いで歩いていたのになあ。
そう思った途端、履きなれない草履のせいでつまずいてしまう。
でも転ぶ直前、振り返った狼くんが私の体を抱きとめてくれた。
「あ……っ」
「大丈夫? ごめんね。もっとゆっくり歩こうか」
「……ありがとう」
遠慮がちに差し伸べられた手を、私も遠慮がちにとる。
デートをしたときみたいに握るんじゃなく、そっと添えるだけだけど、少しだけ距離が戻ったような気持ちになった。


