「さて。花岡じゃないけど、僕も早めに失礼しよう」
「え……。でもお料理もまだですよ」
「いやいや。年寄りはお邪魔でしかない。狼もさっさと行けという顔をしていますしね」
まさか、と辰男さんを見れば、狼くんは気まずそうにそっと顔を背けた。
辰男さんが笑うと、形の良い耳が赤くなる。
「仁葵さんはまだ聞きたいことがあるでしょうが、あとは狼から説明します。これも身勝手で先走るところがありまして、仁葵さんにはご迷惑をおかけしたかもしれませんが、不実なことはしない奴です。どうか話を聞いてやってください」
「……はい。私も、話したいことがあるので」
私の返事に辰男さんはにっこり笑うと、またお会いしましょうと言って部屋を後にした。
残された私と狼くんは、しばらく無言で見つめ合った。


