「失礼いたします。お連れ様がいらっしゃいました」
「どうぞ」
短い返事でも、穏やかさが伝わってくるような声だった。
店員が襖を開き、おじいちゃんが先に入る。
すぐに「久しぶりだな」「いや、先月会ったばかりだろう」「年だからもう忘れた」「よく言う」と軽口が交わされるのが聞こえてきた。
それを聞きながらも、私は敷居をまたげず固まっていた。
すぐそこに、お見合いの相手がいる。
もしかしたら、私が将来結婚することになるかもしれない人が。
本当に、いいの?
このまま会っちゃっていいの?
覚悟を決めたはずなのに、この期に及んで足が竦むなんて。
情けないと自分で自分にあきれたくなる。
でも、さっきから狼くんの顔が頭に浮かんで離れないのだ。


