剣馬の手を借りて、車を降りる。
晴天の下に出ると、さすがに振袖姿は暑くて手で仰ぎたくなった。


「仁葵」


すかさず剣馬が日傘を広げてくれて、ありがたく受け取る。

それにしても、お見合いの場所がここだなんて。
皮肉だなあと、目の間にそびえ立つホテルを見上げた。

ここは子どもの頃、パーティーを抜け出して庭の池に落ちるという失態をおかしたホテルだった。

初恋の彼……飛鳥井狼くんと、はじめて出会った場所。

狼くんとはあれから一度も話していない。
隠していたことを話すとメッセージが来たけど、直接はもちろん電話がかかってくることもなかった。

彼と同棲した短い日々が、夢の中の出来事だったんじゃないかと思えてきて悲しい。