剣馬は一瞬苦い顔を見せると、ぐいっと強く私の頭を抱き寄せた。


「剣馬……?」

「お前があの男の家に泊まってると知って、俺がどんな気持ちだったかわかるか?」


それは怒っている声とは少しちがった。
怒っているのかもしれないけど、でもなんだか少し、元気がない。


「ほいほい男の家に上がりこんで、バカな奴って思ったんじゃないの?」

「お前がバカなのはとっくに知ってる」

「……ソーデスカ」

「俺はただ……お前が心配だっただけだ。傷つくことになるんじゃないかって」


大きな手が、私の頬を両側からはさんで、上を向かせる。
その手つきが優しくて、声に切なさがにじんでいるようで、私はされるがまま。


「俺は、お前にあんな顔させたくなかったんだ……」