マンションのエントランスを出ると、涙がにじんできた。
流れ落ちないよう空を見上げると、星空がやけにきれいで余計に悲しくなる。

そのまま動けずにいると、黒い車が近づいてきて、私の目の前で停車した。


「仁葵」


降りてきたのはやっぱりというか、長い付き合いの幼なじみで。
らしくなく心配そうな顔をしていたから、思わず我慢していた涙がこぼれてしまった。


「何も、言わないで……!」


もう涙は止められないから、せめて情けない泣き声をあげないよう、口を覆うように手でふさぐ。
剣馬はそんな私を、黙って抱きしめた。

口うるさくてぶっきらぼうで、普段はうっとうしさの勝る幼なじみだけど、同時に愛情深いことも私はよく知っている。

きっと「だから言っただろ」と言いたいだろう。
忠告を聞かずに泣くことになった私にあきれているだろう。

それでも剣馬は優しいから、いまは何も言わずなぐさめてくれる。
私はこんなに世間知らずで、身勝手な幼なじみなのに。

剣馬の優しさに甘えて泣いた。


私は今日、二度失恋した。

初恋と、二番目の恋を、どちらも失ったのだ。