私は飛鳥井くんの後ろから、呆然と男の人が走り去っていくのを見送った。

ええと……どういうこと?
どうしてあの人、黙ってあんな風に走って行っちゃったの?


「花岡さん」

「あっ。は、はい!」

「何やってるの」

「え? ええと……」


混乱してる、と正直に答えていいんだろうか。

飛鳥井くんは学校で見るときと同じように、何を考えているのかよくわからない顔で私を見下ろしている。
元々あまり表情に変化のない人で、ミステリアスだと人気の男の子だ。

人気のアイドルや俳優にだって負けないくらい整った、きれいな顔立ちをしているのもあって、まるでひんやり冷たいお人形みたいだと思っていた。
そのせいか私は近寄りがたく感じていて、いままで挨拶くらいしかしたことがなかった相手だ。

でも、どうしてだろう。
いまはなんとなく、彼が苛立っているのがわかる。
その苛立っている理由は、よくわからないんだけど。