送迎の車に乗るために1階に降りた私たちを、ロビーで剣馬が待ち構えていた。
狼くんを見て一瞬彼を睨んだけど、すぐに私に向き直り、不機嫌そうに「お客様だ」と告げる。
「お客様って……私に?」
まさかおじいちゃんじゃ、と身構える。
でも狼くんが私の手をしっかり握って「大丈夫」と声をかけてくれたから、逃げたかったけどなんとか踏みとどまれた。
剣馬にうながされ談話室に向かうと、そこで待っていたのは厳めしい顔のおじいちゃんではなく、やつれた顔をしたお母さんだった。
「仁葵!」
「お母さん……」
「もう、心配したのよ。あんな遅い時間に家出するなんて。連絡はつかないし、何かあったんじゃないかって気が気じゃなくて。ああ、無事でよかった」
私を抱きしめながら、安堵をため息をつくお母さん。
その腕の強さに、どれだけ心配してくれていたのか伝わってきて、申し訳ない気持ちになった。


