私も物心つく前に婚約が決められていたら、あきらめもついたかもしれないのに。
でもいまさらそんなことを考えたって仕方ない。
「それは例えば……三船くんが相手とか?」
「えっ!? な、何言ってるの寧々子ちゃん! 剣馬とそんな風な関係になるなんて、考えたこともないよ!」
「そうなんですか? でも、三船くんは仁葵ちゃんの幼なじみでもあって、お互いのことをいちばんよく知っているでしょう?」
「そうだけど……でも、そんなこと、ありえないもん」
離れた席で昼食をとっている剣馬をこっそり見る。
こうやって、ケンカをしても、剣馬は絶対に私が見える位置にきて、ボディーガードの仕事を忠実にこなそうとする。
それが当たり前で、いまさらそれ以外の関係を想像することなんてできそうにない。
「そうですか……。幼なじみなのに本当のことを教えてもらえないのは、三船くんが少しかわいそうですね」
「……うん。そうだね」
寧々子ちゃんの言葉が胸に刺さる。
剣馬から目をそらした私を、狼くんが静かに見つめていた。


