夢に堕ちて、3秒。





「あ!もう更紗また〜?!そろそろほんとに単位やばいんじゃないの」

「うっ…だって気づいたら目覚ましが止まってるんだもん〜…」



聞き覚えのある声に、教室のドアの方を見やる。

更紗が学校に来たのは、1限の終わりの休み時間だった。



…どうにかして、話をしないと。

声をかけようと席を立つけれど、まとわりつく同クラスの女子たちがそれを許してくれない。

「晶、もう2限始まるよー?」
「どこ行くの?」

わらわらと集まってくる女子に内心舌打ちしながらも、適当に交わして席に着く。


だめだ、これじゃ更紗に話しかけられない。

放課後に話をしてもいいけれど、今の更紗にはすぐに逃げられてしまうような気がするから。


…昼休みだ。
昼休みにちゃんと、話をしよう。



そう思い立ってから昼休みまでは、あっという間だった。

ただでさえ聞き流している授業だって、いつも以上に右から左に流れていって。


どう伝えよう。何を話せばいい。
そればかり考えていた。


チャイムが鳴って、更紗とその友達が机を囲み始める。



「更紗」

声をかけると、更紗は大袈裟に肩を震わせてこちらを振り返った。

大きく見開かれた瞳は、水面のように揺らいで。



その表情に一瞬グサリと心が痛む。

けど。
…更紗にこんな顔をさせているのは俺だ。


だから、こんなことで傷ついてなんていられない。



「更紗、話したいことがあるんだけど。
…永塚さん、更紗借りてもいい?」

「ぜんっぜん大丈夫!!」

友達の永塚さんの方を振り向くと、彼女は目を輝かせながら親指を立ててくれた。
しかもウインクまでつけて。


「っ、ちょっと綾羽……!」

「いいじゃんちゃんと話してきなよ〜!」

「も〜…!」


更紗は小声でもごもごとこぼしていたが、ふぅ、と一度大きく瞬きをしてからこちらを仰ぎ見た。

大きな黒い瞳が、芯を持って俺をとらえる。



「…わかった、移動しよう」