「あ!もう更紗また〜?!そろそろほんとに単位やばいんじゃないの」
「うっ…だって気づいたら目覚ましが止まってるんだもん〜…」
聞き覚えのある声に、教室のドアの方を見やる。
更紗が学校に来たのは、1限の終わりの休み時間だった。
…どうにかして、話をしないと。
声をかけようと席を立つけれど、まとわりつく同クラスの女子たちがそれを許してくれない。
「晶、もう2限始まるよー?」
「どこ行くの?」
わらわらと集まってくる女子に内心舌打ちしながらも、適当に交わして席に着く。
だめだ、これじゃ更紗に話しかけられない。
放課後に話をしてもいいけれど、今の更紗にはすぐに逃げられてしまうような気がするから。
…昼休みだ。
昼休みにちゃんと、話をしよう。
そう思い立ってから昼休みまでは、あっという間だった。
ただでさえ聞き流している授業だって、いつも以上に右から左に流れていって。
どう伝えよう。何を話せばいい。
そればかり考えていた。
チャイムが鳴って、更紗とその友達が机を囲み始める。
「更紗」
声をかけると、更紗は大袈裟に肩を震わせてこちらを振り返った。
大きく見開かれた瞳は、水面のように揺らいで。
その表情に一瞬グサリと心が痛む。
けど。
…更紗にこんな顔をさせているのは俺だ。
だから、こんなことで傷ついてなんていられない。
「更紗、話したいことがあるんだけど。
…永塚さん、更紗借りてもいい?」
「ぜんっぜん大丈夫!!」
友達の永塚さんの方を振り向くと、彼女は目を輝かせながら親指を立ててくれた。
しかもウインクまでつけて。
「っ、ちょっと綾羽……!」
「いいじゃんちゃんと話してきなよ〜!」
「も〜…!」
更紗は小声でもごもごとこぼしていたが、ふぅ、と一度大きく瞬きをしてからこちらを仰ぎ見た。
大きな黒い瞳が、芯を持って俺をとらえる。
「…わかった、移動しよう」



