夢に堕ちて、3秒。



その日の帰り道は、更紗にはなんとなく声がかけられなかった。

教室の外へと消えていく更紗の背中を見つめながら少し期待もしたけど、昇降口についた頃にはもう彼女の靴はなくなっていた。



『だってそれ、見てただけじゃん』


頭の中でヒロの言葉が繰り返される。


見上げた空は曇天で、いつもよりも強い風が頬を撫でた。



…違う、俺は、見てただけなんかじゃ。

かげった思考を振り払うようにして、大股で一歩、踏み出す。


俺は更紗のこと奪われないようにって、考えてた。
だけど、横から奪った奴がいたから。



……違う。

俺が、
俺が愛し方を間違えたからだ。


俺が、自分本位に更紗を傷つけたから。

自分の欲を満たすことばっかりで、更紗のことなんて何も考えてなかった。


もっと単純に、純粋に、『好き』を伝えていれば。
更紗は俺のことを見てくれただろうか。




『気持ちを伝えてすらいないのにフラれたとか、ズルじゃん』


…今の俺は、ずるいだろうか。

告わないまま、失恋した感傷に浸って。
更紗を奪った誰だか知りもしないやつに一人前に嫉妬して。


「告ったら、更紗は俺のこと見てくれんのかな」

なんて。
もう、遅いかもしれないけど。



……それでも、少しでも可能性があるのなら。


微かな呟きは、一層強く吹いた風にさらわれて、消えていった。