「さて。」
一息ついて、黒羽さんは腰を下ろす。
「今日はどんな話をしよう?」
更紗が興味ありそうな話、まだまだあるよ、なんて笑う彼の隣に駆け寄って、私も同じように腰を下ろした。
「今日は、黒羽さんの話がいい」
「俺の話?」
丸く見開かれる瞳に、頷く。
そうだよ。
いろんな人が体験したドラマはたしかに聞いてて楽しいし視野が広がるけど、私は1番知りたい彼のことをまだ何も知らない。
私はもっと黒羽さんのことが知りたいし、彼自身のことを見つめたい。
息巻く私に、黒羽さんは
「でも俺の話って言ったって、何も話せることないよ?」
なんて苦笑する。
「そんなことないよ!!例えば…そうだ、黒羽さんって何歳なの?」
「歳かぁ……んー…忘れちゃったなあ」
「じゃ、じゃあ家族構成とか…!」
「家族なんてのは、夢魔にはないんだよ」
「好きな食べ物は!」
「夢しか食べないから、わからないや」
「好きなこととかは?」
「んー…更紗と一緒にいることとか?」
にこり、と微笑まれて、言葉に詰まる。
交わされているような気しかしないけど、どうなんだろう。
「ね、つまらないでしょう?」
白群の瞳は、三日月型に細められて見えなくなった。
その言葉に、どこか心の底が冷えたような気がして、慌てて首を振る。
「そんなことない。知らないより、ずっといい」
何も知らないよりもずっと近くに感じるし、
わからなくても、隣にいられるならそれでいい。
こんな彼のことを、好きなんだから。
「……あれ」



