黒羽さんいわく、ここは夢の中だから、私がしたいと望んだことが全てできるらしい。
たとえば、遊園地に行きたいだとか。
外国の観光地が見たいだとか。
黒羽さんは今までたくさんの人の夢を食べてきたから、記憶の中から再現できるらしい。
「更紗は、どこに行きたい?何が食べたい?なんでも言って」
甘い笑みをたたえる黒羽さんは、まるでなんでも願いを叶えてくれる魔法使いみたいだ。
だけど、私は──…
「私は…、何もいらない。どこにも行かなくてもいい。…黒羽さんが、隣にいるなら」
彼のシャツの裾を掴む。
黒羽さんはまたきょとんとした顔をした後、「…もう、」と顔を伏せた。
…もしかして、めんどくさい女だと思われた?
しまった、と慌てて裾を離す。
焦る気持ちのまま一歩二歩、と後ずさるけど、黒羽さんは一向に顔を伏せたままだ。
どうしよう、何も言ってくれない。
沈黙が痛くて、心臓がドキドキと音を立てる。
何か、弁明しなきゃ。
「あの、黒羽さ……」
指を伸ばしかけて、ふと気づく。
あれ?黒羽さん、もしかして……。
「黒羽さん」
「…!ちょ、」



