「おはよう更紗〜!…あれ?」
朝のHR開始5分前、慌ただしく教室に駆け込んできた綾羽は、私を見て目をぱちぱちと瞬かせた。
「おはよう綾羽。な、何?じっと見て」
「いや、なんか…なんだろ。雰囲気変わった?」
鞄を机に下ろしてまた私のそばまで戻ってきた綾羽は、しばらく考えるそぶりを見せた後に「ああ!」と顎に添えていた指を離した。
「なんか、明るくなった気がする!」
あまりにニコニコと言うから、思わず手鏡を取り出してチェック。
それでもやっぱりそこにはいつも通りの私の顔しか映っていなかった。
「え〜?そんなことないと思うけど…。今日綾羽がご機嫌なだけじゃない?」
「違うってー!顔色?かな、良くなったよ絶対!!
なんか思い当たる節ないの?」
男とか!なんて冗談めかして綾羽は笑っていたけど、私はその言葉でふと思い出す。
昨日の夢の、彼のこと。
「……あ、」
たしかに晶の夢を見なかったからか、寝覚めは良かったけど。
そういえば、『嫌な夢を見たからずっとそばにいてほしい』なんて、まるで子どもみたいなこと言っちゃった。
しかもあんな、かっこいい人に。
幼いすがり方をしてしまったことを思い出して、かぁ、と頬が熱くなる。
それを見て何を勘違いしたのか、綾羽はわくわくしたような、にやけた笑みで私をつついた。
「なになに?顔真っ赤だよ〜?もしかしてほんとに好きな人でもできたの!?」
「なっ、違…っ!」
弁明しようとした時、運悪くチャイムが鳴って、先生が教室に入ってきてしまった。
「あ、みっちゃん来た。じゃあまた後でね、更紗!全部聞かせてもらうから!」
「だから違うって言ってるのに…!」
そんな私の声は、綾羽には届かなかったみたいだ。