ぐ、と喉に何かがつっかえて、上手く喋れない。
悪夢。私は夢の中でも、晶に囚われている。
彼に散々悪口を吐かれた後、ストレスからか夢見が悪くて。
昔の晶の優しい笑みが一変して、突如罵倒の雨を降らされる、そんな夢を見るようになった。
俯いて、温度のなくなっていく指先を、そっと熱が包む。
同時に、優しい声。
「でも今は、俺が食べちゃったから夢は見ないでしょ?」
「あ……」
顔を上げると、透き通った瞳が私を見ていた。
そうだ。たしかに、彼がいるからか今まで言われなければ晶のことなんて気にもならなかった。
「これからはずっと、俺がその悪夢を食べてあげる。それから、更紗の望む夢を見せてあげるよ」
「…ほんとに……?」
「本当だよ。だって俺は、夢魔だからね」
ふわり、と黒羽さんの端正な顔が笑みをこぼす。
甘いその笑顔に、強張っていた心が解けていく感じがした。
本当に、もう晶の夢に苦しめられなくていいの?
本当に、彼が私を助けてくれる…?
それなら……
見渡す限りの水面と、彼岸花。それ以外何もない場所だけど。
「それなら、私のそばにいて」
それでもいい。晶のことを思い出さなくていいのなら。
黒羽さんは、私を見てまた微笑んだ。
「もちろんだよ、更紗」