「また来るって言ってたわよね、あのお客」
「言ってたね。いつかは言わなかったけど」
「次来たら絶対文句言って突き返してやるんだから!」

 金の懐中時計をカウンターの引き出しに仕舞おうとしているリリカにピゲは声を掛ける。

「でもさ、気にならない?」
「何が」
「なんのために時計に魔法なんか掛けたのかって」

 するとリリカは一瞬だけ引き出しを閉めようとしていた手を止めた。

「……そりゃ、ちょっとは気になるけど」
「なら」
「だーけーど! 私は時計修理に魔法は絶対使いません!」

 パタンと引き出しを閉めてしまったリリカにピゲは半眼になる。

「頑固」
「じぃじ譲りのね!」
「掃除とか洗濯は全部魔法で楽するくせに」
「折角の才能ですから?」
「意地っ張り!」
「なによ、やたら突っかかってくるじゃない。そんなに気になる?」
「気になるよ! それにあのお客お金持ちそうだったし。直してあげたらいっぱいお金もらえるかもだよ?」
「私はああいうヘラヘラした人は苦手。何か裏がありそうで嫌な感じ」

 ……それは、ピゲも否定できなかった。


 結局その日その男性客は現れず、別のお客から預かっていた時計修理を全て終わらせて、リリカとピゲは店の二階の寝室で眠りについた。

 ――その夜、ちょっとした事件が起きた。