あの後すぐに外に出て彼の姿を捜したが結局見つからず、リリカは一先ずお昼を済ませてから、カウンター上の懐中時計をじっと見下ろしていた。
 ちなみに今日のお昼は近所の行きつけの魔法のお弁当屋さんで買ってきた《普通の》サンドイッチだ。魔法仕掛けのピカピカ光るサンドイッチは子供向けだからリリカはいつも《普通の》サンドイッチを買う。ピゲも使い魔の猫用ハムサンドを食べた。

「これ、本当に魔法掛かってるの?」

 ピゲは懐中時計をくんくんと嗅いでから仏頂面のリリカを見上げた。

「一応、試してみるか」
「魔法を?」
「なわけないでしょ」
「だよね……」

 リリカは長い黒髪を一纏めにしてから懐中時計を手に作業机に移動した。
 椅子に座るとリリカの職人スイッチが入る。
 懐中時計の側面をぐるっと見てその場所を見つけたらしいリリカは「こじ開け」と呼ばれる専用工具を手に取り、見つけた隙間にそのヘラ先を差し込む。それを押し上げれば大抵の時計はパカっと裏蓋が外れるのだが、どうやら外れないらしくリリカの顔がどんどん赤くなっていくのをピゲは見ていた。

「やっぱり無理そう?」
「~~、なんで時計に魔法なんか掛けるのよ!」

 リリカは勢いよく立ち上がって髪をするりと解いた。……早々に諦めたらしい。