――数時間後、再び動き出した金の懐中時計を手にして彼はにっこりと笑った。

「きっと先生も喜んでくださると思う。本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ魔法の件は、本当にすみませんでした」

 ドアの前でふたりが話しているのをピゲはリリカの腕の中で大人しく聞いていた。
 いつの間にか雨は上がり、店内にも明るい光が差し込んでいた。

「そうだ。さっきのあのお客の時計はどうするんだい? 彼は捨ててくれって言っていたけど」
「あぁ……」

 リリカは作業台の方に視線を送った。

「もしかしたら気が変わって取りに来るかもしれませんし、このまま預かっておきます。捨てるなんて私にはできません。物はどんな持ち主にも懐くものなので」
「そう。……それじゃあ、本当にお世話になったね」

 帽子を被りドアノブに手をかけた彼に、リリカは思い出したように声を掛ける。

「そういえば、まだあなたの名前を聞いていなかったわ」
「僕かい? 僕はユリス。ユリス・アディエールだ」

 彼、ユリスはそう名乗ってからリリカに笑いかけた。

「また君の魔法を見に来ていいかな」
「え? 別に、構いませんが」

 リリカがびっくりしたように答えるとユリスは満足げに笑った。