「でもなんで、この魔法通りに店を出したんだい?」
「あー……」
もっともな問いだった。リリカはその理由も恥ずかしそうに話していく。
「実は、一番安かったんです。この通りは魔法使いだと何かと優遇されるので」
ピゲはリリカがこの話を他人にするところを初めて見た。
「当時、勘当された直後で私お金が全然なくて」
「そういうことか」
彼は納得したように頷いた。
「……私は、どうしても時計職人になりたかったんです。じぃじのような魔法使いみたいな時計職人に」
優しい顔つきで続けたリリカの声をピゲは心地よく聞いていた。――じぃじの話をするときのリリカの声がピゲは一番好きだ。
「魔法使いみたいな?」
「じぃじは魔法使いではありませんでしたが、時計を修理しているときのじぃじは本物の魔法使いよりも魔法使いみたいでした」
誇らしげにはにかんだリリカに彼は目を細め言った。
「君はもう、おじいさんのような一流の時計職人になれているじゃないか」
「え?」
「前にあのご婦人も言っていただろう。『流石、ウェルガーさんのお孫さんね』と。あれはそういう意味だろう?」
リリカの驚いた顔が徐々に嬉しそうに緩んでいく。
「そうだと、いいです」