「マイナーなやつも聞くし。みゆは、あんたが知らないようなバンドも好きなんだから」
「へー」
「絶対、趣味合わない自信ある」
いつかのセリフを返してやる。
言われた方は、ずっと根に持っているのだ。
軽音部のバンドの曲がはじまる。
みんなが知っているような、最近はやりの邦ロックだった。
可愛くリズムに乗っておく。
ちら、と和泉しゅうを見上げたら、彼は真剣に聞いていた。
その横顔の輪郭に、ドキリ、となったのは、ベースの重低音のせいだ。絶対にそう。
その次の曲は、一昔前のバンドのものだった。
パパが好きで、私も聞くようになったものだったけれど、天使とはかけ離れているから、だれにも言っていない。
それなのに、和泉しゅうには、もう天使の自分なんてあげるつもりはないし、馬鹿にされてばかりでムカつくしで、何故か言いたくなってしまった。
背伸びをして、彼の耳元に可愛くないトーンで告げる。
「これ、みゆが好きなバンドの曲」
和泉しゅうは、ステージから目を離して、横目で私を見た。
あんまりうまくはないボーカルの男の子が、“本当のことばっかりで、嫌になっちゃうなー”と歌っている。
どちらかといえば、あんたのピッチのずれ具合に嫌になるよ、なんて思いながら、和泉しゅうを睨んだら、なぜか彼の口角がゆるやかにあがった。
「俺も、これ好き。でも、今歌ってるやつはまじで下手」
「みゆのほうが、これ好きだし」
「あっそ。じゃあ、撤回しとくわ」
「何よ」
「絶対趣味合わない自信。ない。案外合うかもな」
それだけ言って、和泉しゅうは、またステージのほうに向いてしまう。
「……ひとつも嬉しくないし」
誰にも、和泉しゅうにも聞こえないくらいの声で返事をした。
“君にあげられなかったもので、心がいっぱいだー”だって。ステージから、すごい熱気を感じる。
確かに、今歌ってる男の子は、
“まじで”下手くそだ。



