可愛くないから、キミがいい【完】








―――ドンッ。



気がついたら、力一杯和泉君の胸を押している。


和泉君は私がまさかそんなことをしてくるなんて思わなかったのだろう。

ちょうど道の端だったので小さな溝があって、不意打ちで押されたからか、よろめいて、そこに足を踏みいれて後ろに倒れるように転んでいた。




ざまあああああみろ、だ。
あんまり私のことを舐めないでもらいたい。

やられっぱなしの言われっぱなしなんて、絶対にありえない。




「は? お前、なに?」



怪訝そうな声に、はーーっと盛大にため息を吐いてやった。


もういい。本当に、もういいよ。

こんなやつの前で、天使なんかでいなくてもいい。そんな時間がもったいない。

本性だって、この男にはもうばれていい。
こうなったら、仕方がない。

だって、この男に腹が立つ気持ちをおさえることのほうが難しい。


まだ、間抜けな格好で溝にはまっている和泉君のところへ近づいて、見下ろす。


私は今、かなりひどい顔をしているだろう。

天使の面影もないと思う。


可愛こぶる余裕なんてまったくなかった。


わざとらしく無理やり口角をあげる。それから、家族にしか見せたことないような顔で睨んで見せた。



「言っとくけど、こっちが、あんたなんか願い下げだから」

「は?」