可愛くないから、キミがいい【完】





可愛くいようと思えない、たったひとりの好きな人の前で、どういう風にいればいいのか。

どういう自分でいたって気恥ずかしい。

素を見せるって、楽なことだけじゃないのだ。怖くて、照れくさい部分だってある。

お前の好きなようにいろよ、と、和泉しゅうにはよく言われるけれど、好きなようにいる恥ずかしさに耐えられないことも極たまにあって、一体どういう態度でいるべきなのか、という難問に、今までも何度かぶつかってきた。

キスに応えながら、ぼんやりとそんなことを考えていたら、不意に、す、と和泉しゅうの唇の熱が離れていった。


「おい」

掠れた甘ったるい声は、少し不機嫌である。和泉しゅうの目を見つめたら、「考え事すんな」と怒られる。

自分と和泉しゅう以外に思考を巡らせているわけではないのだから、そのくらい許してほしい。

「べつに」と答えたら、また眉間にかすかに皺がよった。


「あのな、そういうのは、普通に嫉妬する」

「変、なの」

「こっちに集中しろよ」

「……しゅうのこと、考えてるんだし」

「は?」

「あんたのこと、考えてるの!」

「……………あそ。じゃあいいけど」


和泉しゅうは、結構単純な男だと思う。

すぐに機嫌を直したのか、眉間の皺は消えて、触れるだけの口づけを落とした後、微妙に口角をあげた。

ふぅん、あんたは、こういうときに嫉妬するんだ、と思いながら、ちょっとだけ嬉しくなってしまう。

だけど、それどころではなく、どういう態度でいればいいのか分からないということが、今の自分には一番の問題であり。


「しゅう」

「ん?」

「……どういう、みゆでいればいい?」

「は? 知らん。好きなようにいろよ」

「笑わない?」

「笑わないし、お前のいたいようにいればいいんじゃねーの」

「……でも、他の男の子とじゃなくて、あんたとは、はじめてだし。みゆは、あんたといると、本当の自分でいる恥ずかしさで、ときどき、消えたくなる。でも、あんたには本当の自分しか見せたくないの。だから、困る」

「消えられるのが、一番、困るわ」

「………本当に、笑わない?」

「だから、笑わねーって。つーか、笑ってるときは、大体、お前のこと好きだなって思ってるときだけど。だめなのかよ」

「………それなら、だめじゃないかもだけど」

「俺は別にお前なら、どんなんでもいい」

「……ふぅん」


─────だから、そろそろ俺のことを信じればいいだろ、と。


そう言って、指先で頬を撫でてきた和泉しゅうに、じゃあもういいよ、と観念して、また目を閉じた。

信じる、信じないの話ではなかったはずなのに、着地点をそこにもってきた和泉しゅうに対して、あんたのそういうところを結局好きでいてしまうのだと思ったけれど、口にはしなかった。