可愛くないから、キミがいい【完】




和泉しゅうは、渋い苦笑いを浮かべて、「まあ、多少は」と歯切れ悪く答えた。分かりきっていた答えなのに、いざ、認められると微妙に引っかかるものがある。

本気にもなれなかったくせに、することはしてるんだ? なんだかそれって最低じゃない?

なんて、ほとんど嫉妬のようなものが一瞬だけ、自分の心で膨れ上がった。歯切れ悪く答えてきたのもなんだか気に食わなかったのだと思う。


「もう、聞かないし」

「そうしてくれると助かる」

「………助かるじゃないんですけど」

「今、拗ねられても、どうしようもねーだろ」

「……自分から好きになったの、みゆだけって言ったくせに」


どうして、和泉しゅうには、こうも面倒な自分を出せてしまうのだろう。不思議だ。

だけど、不思議がっている場合ではなく。

和泉しゅうの表情が曇ってきたから、ぎゅっと服の袖を引っ張った。

いま、離れられたら最低な夜になってしまう。付き合ってはじめてのお泊りが、嫌な思い出になるなんて嫌だった。それだから、過去のことなんて全部思考の外側に放り投げて、今このときに集中するべきなのに。


「……ちなみに、みゆだって、たくさんしたことあるからね。たぶん、あんたより、経験豊富だから。……大学生、ともあるんだから」


───────結局、嫉妬の余韻で、口を滑らせて、馬鹿みたいなことを和泉しゅうに伝えてしまったのだった。


言った瞬間に、和泉しゅうの眉間にぐ、と皺が寄ったから、機嫌を損ねてしまったのだと気づく。当たり前だ。

ちょっとだけ反省して、名前を呼ぼうとしたけれど、その前に、和泉しゅうの不透明な鋭い低音が落ちてくる。


「聞いてもねーこと言ってくんな。まじでお前何なんだよ、うざいにも程があるだろ」


本当に、怒っている顔だ。

その下で、ムッとした表情をつくることしかできない自分が嫌になった。この男の傍では、どうしてもこうも私は可愛くいられないんだろう。


「……あんたも、ウザいし」

ぎゅっと唇を噛んで、上目で睨む。

和泉しゅうが、はー、と大きなため息を吐いて目を伏せたから、「しゅうも、みゆも、なんでこんなに急にウザくなるの。………やだ」と、思ったままのことを付け足して、吐き出した。