駅を出たら、知らない街が広がっていた。
和泉しゅうの住んでいるところだ。なんだかよく分からないけれど、ふぅん、と思った。
自分から和泉しゅうの手をとって、ぎゅっと握れば、「ぬくい」と言って、和泉しゅうが呑気に欠伸をした。
「何時に起きたわけ?」
「さっき」
「やっぱり。みゆ、そうだと思ってた。ムカつく」
「部屋散らかってたから、昨日の夜掃除してたら寝るの遅くなった。仕方ねーだろ」
「これで汚かったから帰るから」
「引き止めないからな」
「別にいいし。……それで? 和泉しゅうのとこの両親は、よく旅行に行くの?」
「いや、全然。毎年、結婚記念日にだけどっか行くみたいな感じ」
「ふぅん。仲いいんだ」
「悪くはない」
見たことのない景色の中を和泉しゅうにつれられて歩いている。和泉しゅうがここで育ったんだと思うと、不思議な気持ちになる。
私の暮らしているところよりも、落ち着いたところだった。家が並んでいて、見渡す限りでは大きな建物もない。
「このあたり、なんだか平和そう」
「まあ、何もないからな。過疎りつつあるし」
「ふぅん」
「この前、俺の行きつけのバッティングセンターも潰れた」
あそこらへんにあったのな、と、和泉しゅうが車道の向こう側を指さしたから、そちらに顔を向ける。
和泉しゅうがバッティングセンターに行くというのが意外だった。まっさらな平地をしばらく見つめた後に、隣に視線を戻す。
「バスケ部じゃなかったわけ?」
「なんで知ってんだよ」
「……和泉しゅうがみゆの高校の学祭にきたときに、山路君が言ってた気がするだけ」
「よく覚えてるよな」
「別に。たまたまね」
「小二のときからバスケしてるから部活はバスケ部だったけど。よく父親に連れてってもらってたから、バッティングは好きだな」
「ふぅん」
「どうでもいいんですけど?」
「……ちがう。どうでもよくはないかもの、ふぅん、なんですけど」
「はは、なんだそれ」
笑われるとやっぱりムカついてしまうから、ぎゅうっと繋いだ手に力をこめた。そうしたら、すぐに、「いてーわ、アホ」なんて文句が返ってくる。
同じようなやりとりを今までにもう20回以上はした。たぶん、これからもするのだと思う。



