ゆっくりと、唇を離して、顔を遠ざける。
「……びっくりした、」
「犬、怒ったんかもな」
「……あんたのせいだから」
周りには、相変わらず誰もいないのでホッとする。
あたりはすでに薄暗いし、誰かに見られたわけでもないだろう。
犬が吠えたのもおそらくたまたまだ。
人のいるところでキスなんてしたくない。
自分たちだけが知っていることが、多いほうがいい。
誰かに見せつけたいものなど、この女と違って、俺には何もないのだ。
広野が微妙に俺の方へ体重を預けてきたので、手を背中へ回して、ぐっと肩を引き寄せた。
半分だけ抱きしめたような状態になる。
「さみ」
「……しつこいんですけど」
「お前も寒いくせになんなんだよ」
「みゆは別に」
「俺は、寒い」
「……みゆ、あったかいわけ?」
「うん」
「湯たんぽじゃないんですけど」
「知ってるけど」
「……あと、五分くらいならいいよ」
「いや、そんなに長くはいい」
からかうような気持ちが生まれる。
わざと、求められていない答えを返してしまう。
俺は自分が思っているより、ガキなのかもしれない。
そういうのまじでやめたほうがいいぞ、と自分自身に対して思う。
広野は、案の定、少し怒った顔をして、それでも、「じゃあ、あと十秒しかだめだから」と、広野らしい言い方で、気前のよいことをいった。



