可愛くないから、キミがいい【完】





ただ、どうせこの女がジム・ジャームッシュを好きでいることもしらないような男に告白されていようが、別に大した問題ではないし、そもそも俺にそういうことについて何かを言う権利をこの女はまだ与えていないように思う。

束縛なんて、いままでしたこともないから、よく分からない。

別にしたいとも思わない。


独占欲を自覚したとて、それを実際に、行動に移す気はなかった。




なんだか険悪な雰囲気が流れだす。


広野の顔をのぞきこんだら、予想通り、彼女は不満げな顔をしていた。


お前が試すからだろ、と思うけれど、言わない。

俺にも原因はあるのだろうな、となんとなく分かっている。


「そういえばだけど」

「……なに」

「今日、俺も、隣のやつに急に泣きつかれたんだった」


わざと、広野の口調をマネしていった。

そうしたら、少しだけ俺たちの間に流れていた空気がマシになる。


「隣のやつって、男の子じゃないの?」

「まあ、男子校だからな」

「理由は?」

「二年付き合ってた彼女に振られたらしい、あと、急に、昔飼ってたハムスターのこと思い出したら、無理になったらしいな。授業中、俺の制服つかんで、むせび泣いてて、かなり怖かった」

「意味わかんないんですけど」

「な。怖すぎ」

「……ホラー苦手なんだもんね」

「それとこれとは別だけど、ホラーはまじで無理だな」

「ほんとに、ダサい」



横目で少しだけ睨んだら、広野が、また「ダサい」と言って、笑った。


大きい目が細まって、唇のあいだから少しだけ歯がのぞく。

淑やかではない笑い方。
素の、表情、なのだと思う。


そうやってお前が笑うなら、別に、ダサくていいけど、と、あまりにも気持ち悪い考えが、一瞬だけ頭に浮かんで、すぐにかき消す。