可愛くないから、キミがいい【完】




リンゴとラムレーズンのクレープは、甘さが控えめで、洋酒がつかわれているのか、少し洒落た味がした。


「ラムレーズンって感じ」

「当たり前なんですけど。…みゆ、これ今まで食べた中で一番好きかも」

「そんなら、よかったな」

「このお店、どうやって見つけたの? 前に違う人と行ったとか?」


広野の方を向いて肩肘をつく。

「行儀悪いんですけど」とすかさず文句が飛んできたから、「うっせぇ。ちょっとくらい、いい」とそのままの体勢で、適当に返事をする。


「この店は来たことない。いつも大体ネットで探してる」

「ふぅん。数々の元カノさんかと思ってたけど、違うんだ」

「出た、数々の元カノさん。お前、結構、しつこいのな」

「みゆは、しつこくない。別にどうでもいいし」

「俺も、どうでもいいんですけど」

「……………かかってる音楽がいいなと思って」

「ん? なに」

「店内のBGM。知らないアーティストだけど、いいなと思ったし、クレープも美味しいし、……みゆは、ここ、いいお店だと思う」

「な。流れてる曲、結構渋いから、びっくりした」


店先で流れている音楽を広野は結構チェックするタイプらしい。

俺もそういうタイプだ。



いいな、と思う。

狙っていない、わざとらしくない、不満げに押し付けてくる態度や感情、感想に対して、ほとんど、いいな、と思ってしまっている。


携帯を取り出して、店内でかかっている曲のはいったアルバムを広野に教える。頻繁には聞かないものの、疲れたときとかに時々聞くアーティストのものだ。

広野は俺の携帯をのぞきこんだ後、自分の携帯にメモをして、少しだけ嬉しそうに口元をゆるめた。



「………帰ったら、聞いてみる」


つくられた笑顔でもなく、機嫌をうかがうような胡散臭い言葉でもなく、おそらく本人も気づいていないうちに零れ落ちたような無防備な言動を知っているのは、自分だけがいい。

馬鹿みたいな独占欲の芽生えを、俺はすでに自覚している。