「しゅう、今日バイトだっけ?」


放課後、帰り支度をしていたら、仲のいいクラスのやつに聞かれ、「いや、違う」と首を横に振る。


バイトはない。
ただ、予定はしっかりある。


瞬時に頭の中で、むっとした女の顔が浮かんで、頬がゆるみかけた。
咄嗟に、ぎゅっと表情筋に力を入れる。

我ながら、気持ち悪い。


自分でも、分かっている。

昨日、こーたに「最近、お前、機嫌いいよな」と言われて、まじかと思った。それなら、幼い頃のように、愛想のない仏頂面と言われていたほうがマシだ。



「第二体育館でバスケしよーぜ、他も誘ったけど人数が足りねーんだよ」


少し困ったように頼んできた相手に、「すまん、今日は無理」と断って、教室を出た。<あと十五分後くらい>とメッセージをいれて、携帯をしまう。


今日は、クレープを食べにいくことになっていた。

昔から、甘いものがすきだけど、今は、甘いものを口実にしてしまっているだけかもしれない。


誘うのはいつも俺からで、つねに相手が“仕方ないからいいよ”のスタンスで同意をしてくることに、なんとなくムカつき始めているけれど、誘いたいから誘っている、一緒にスイーツを食べたいから食べに行く、好きだからそういう態度を俺なりに出している、というか、普通に触れたい。

それらの行動や気持ちに、変な駆け引きや計算を含ませられるほど、器用でもなかった。



好きな音楽を聞きながら、待ち合わせの駅に向かう。

途中で、〈はやくして〉と愛想の欠けらも無い返事がきて、“みゆがナンパされてもいいわけ?” なんて広野の声が、脳内で勝手に再生された。


自分のことをお姫様かなんかだと勘違いしている。

口にする気はないけれど、あれは中二病とほとんど同じだと思う。



でも、好きなのだ。

それが全てではないけれど、自分にとってはかなり大きな気持ちだった。