Side 和泉



「そばにいてやる」と言ったら、「仕方ないからいいよ」と言われた。

どんな顔をしているのかは見えなかったけれど、泣きながらむっとした表情を浮かべていることはなんとなく分かった。



好きだとは、口にしなかった。

まだ、言うべきではないと思ったのが二割で、気恥ずかしさと、手のひらを返してくるなと文句を言われたくはないなと思う気持ちが八割。


でも、どうせ伝わっているんだろうなと思いこんでいた。

伝わっていてほしかった。



傲慢だった。



エスコートをしろと文句を言われただけで、手なんて簡単に繋がない。

キスなんて、誰とでもできるわけがない。


不服そうにつんとした顔で見上げてくる仕草や睨んだ表情に、気付けばグッとくるようになっていた。


本当のことを言えば、溝に落とされ暴言を吐かれたあとにはもう、ムカつく気持ちと同じくらい、“広野みゆ”に対しての興味が湧いてしまっていた。

本性を隠すことを放棄した女と喋っていると、腹が立ったけれど、それ以上に楽しかったし、なぜか心地よかった。

傷ついたことを認めるのにも手こずって、時間が経ってからしか泣けない女のことを、これからも見ていたいと思った。



―――いつの間にか、恋になっていた。