唇を尖らせたまま、和泉しゅうを見上げる。
彼は、私の気持ちなんて何にも分かっていない様子で、「行くぞ」と、改札のほうへ歩き出した。
隣に並んで、「どこ行くの」と聞く。
「パフェ食いに行きたい」
「みゆは、映画見に行きたい」
「じゃあ、映画でもいいけど」
「ホラーがいい」
「却下」
「じゃあ、最近上映開始したミュージカル映画がいい」
「ん、いいよ。俺も、ミュージカル見たい」
改札を抜けて、ホームで電車を待つ。
隣に立つ和泉しゅうの方の手に触れたら、何も言わずに繋いでくれた。ごつごつした手に、安心する。
どんな私でも、この男は、
迷わず手を繋いでくれるのではないかと思う。
今日も、悔しいことに、
和泉しゅうを、私は好きでいるのだった。
ぎゅ、と繋がれた手に力をこめて、「和泉しゅう」と、名前を呼ぶ。ん?と、和泉しゅうは首を傾げて、私を見ろしてきた。
「みゆのこと、すき?」
「それ、毎日言わないとだめなのかよ」
「じゃあ、いい」
なんなの、と思いながら、顔を背ける。
ホームに、電車の到着を予告するアナウンスが響く。その音にぼんやりと耳を傾けていたら、和泉しゅうの影が視界の隅で動いた。
なに、と、背けた顔を再び和泉しゅうの方へ向ける前に、クリアではない、だけど、最近ではもうかなり気に入ってしまっている低音が鼓膜を震わせる。
―――「好き」
裏切れないから、裏切らないでほしい。
信じるから、信じさせてほしい。
好きだから、好きでいてほしい。
甘酸っぱい感情には、まだ、底がない。
ゆっくりと和泉しゅうのほうへ、顔を向ける。
アナウンスにかぶせて、
「言っておくけど、みゆもだから」と伝える。
そうしたら、和泉しゅうは、目つきの悪い目を少しだけ細めて、嬉しそうに笑った。