可愛くないから、キミがいい【完】






「おい」と、和泉しゅうの不透明な低音を耳が拾ったけれど、もう絶対に返事なんてするもんかと思った。


とにかく、一刻も早く、
この場を離れなければいけない。



痛いほどの視線をいろんな方向から感じていたけれど、誰とも目を合わせることもなく、可愛い顔を作ることもせずに、ただ、足を動かす。

自分の後ろを、誰かがついてきているのが分かったけれど、振り返ることはしなかった。



だけど、しばらくして、「おい、広野、とまって」と、また、和泉しゅうの声が聞こえて。

追いかけてきたのが、唯人君でも他の誰でもなく、彼であったことに、胸がぎゅうっ絞られるみたいに痛くなった。


和泉しゅうが私を追いかけてきた、ということを、答えには、絶対にしてはいけないと思いながら、歩くスピードを速める。



「ストーカーみたいになってんだよ。まじで、とまれって」


一人になりたかったのに、和泉しゅうは、どこまでもついてくるみたいだった。

そんなことをするような男ではないと思ってた。

本当に、馬鹿みたい。
いまさら、そんなのは、いらないのだ。



どれだけ歩くスピードを速めても、男の人の歩く速さにはかなわない。


人気のない道へ入ってしばらくしたところで、ぐ、と肩を掴まれる。さっき腕を掴まれた力よりは弱かったけれど、回り込まれて道を塞がれたから、立ち止まるしかなかった。




「………なんなの、」



どうして、追いかけてくるのか分からない。

そんなに、私が惜しかったのだろうか。他の女の子もいるくせに。欲しい言葉を何にもくれなかったくせに。


どうして、あんただけが、息を切らしてまで、
私のことを追いかけてくるの?