可愛くないから、キミがいい【完】






「みゆちゃん、本当に可愛いからさ。俺のことも、かっこいいって言ってくれたし。いけるでしょ?」



いけるでしょ?って何、キモチワルイ。天使の微笑みをあげることですら、躊躇われる事態だ。

インテリ君かと思ったら、ただの眼鏡の盛った男の子だったみたい。

捕まれた手首も痛いし、割とかっこいいって思っていたのに、だらしなくゆるまった顔はもう気持ち悪いとしか思えなかった。




――――どうしよう。

こういうことになったことは、今までにも何回もある。だけど、いつも、なんとかすり抜けてきた。

今回も大丈夫だろう、と思うけど、もう辺りは暗いし、あおい君の声に必死さが混じっているしで、ちょっとだけ焦ってくる。



サイアク、キュウショ、ケル。

これは、天使らしからぬ、魔法の言葉。




「あおい君、あのね、みゆ、カラオケに忘れ物しちゃったから、とりにいっていい?」

「えー、そんなの、あとでいいじゃん。俺もついていったげるから。とりあえず、俺の家、いこ?」



今日初めての、恐怖心が微かに胸に生まれた。


立ち止まろうとしても、あおい君がぐんぐんと前に進むから立ち止まれない。

嫌だ、この人とはしたくない。というか、手も離してほしい。強引さが、怖い。

なんで、最初に喋りかけてしまったのだろう。


一番はじめに戻ってやり直したい。

和泉君が来ることが分かっていたら、あおい君には一ミリも思わせぶりの態度なんてしてあげなかったのに。


どくどく、と、脈拍がはやくなっていく。




「あおい君っ、」


頑張って力をいれて、あおい君の手から逃れようとしたけれど、手首を離してくれることもなく。

もう少しで、住宅街にはいってしまう。


そうなったら、おしまいだ。まだ一度も使ったことがない、最終手段を使うしかなくなる。