カラオケを出ると、ミーナとトシ君はふたりですぐにどこかへ行ってしまったので、和泉君以外の残りの人たちだけになる。
マユも塾があるみたいで、急ぎ足でひとり駅に向かっていった。なほちんとコータ君が二人で楽しそうに話している。
いつの間にか私のそばには、あおい君がいた。
「送るよ」
「ほんとう?」
求めているのは君じゃないけど、と思いながらも、天使なのでとびきり嬉しそうな顔くらいできる。
「しゅうが来ないうちに行こうよ」
「えっ、」
そのまま手首を捕まれる。
優しそうなインテリのイメージが大きかった分、手首を掴む力の強さに吃驚してしまった。
あおい君に引っ張られるように歩き出す。
「あおい君?」
「みゆちゃんさ、門限とかある?」
「えっとね、十時、かな。でも、今日はパパとちょっと約束してるから、はやく帰らないとだめ、かも」
咄嗟に嘘をついたのは、あおい君が進んでいる方向が、駅とは反対方向だったからだ。
これまでの経験からして、分かる。
これは、あんまりよろしくない状況だ。
「まだ二時間くらいあるじゃん。俺ね、一人暮らししてるの」
ほら、ね。サイアク、だ。
カラオケのお店がどんどん遠ざかっていく。
和泉君のブレザーの上に、わざと忘れ物までしてきたというのに。



