可愛くないから、キミがいい【完】






「つーか、あのとき、何歌ってたっけ」


和泉しゅうが、マイクを自分の方に寄せて、タブレットを操作し始めた。声が枯れるなどと言っていたけれで、またカラオケを再開するらしい。



「……尾崎豊の、オーマイリトルガール、歌ってたとおもうけど」

「そうだっけ。よく覚えてんのな」

「たまたま、ね。みゆは記憶力がいいから」

「あー、そう。広野は記憶力がいいんすね、なるほど」

「返事がかなりムカつくんですけど」

「はは、じゃあ、オーマイリトルガール歌うわ。この世で五番目くらいに好きな曲な」

「なにその、中途半端な順位。まあ、みゆも、オーマイリトルガールは好き」

「ん。なんか、お前の実は好きなものの系統、分かってきたかもしれないわ」


和泉しゅうが曲を転送したら、
ほどなくして前奏がはじまる。

椅子の背もたれにだらしなく背を預けながら、マイクを持っている和泉しゅうの横顔をじっと見てしまう。

ゆっくりと唇を開いて歌い出したその声は、不透明で、この曲を歌う歌手よりも低いけれど、やはり上手で、なぜか甘ったるく聞こえた。



歌う横顔を視界の真ん中にいれながら、
考えてしまう。


二人にしては広いカラオケボックスのなかで、身体が触れあってしまうくらい傍に座る理由。

無防備に笑う理由。


知りたいけれど、知りたくない。

そういうことが、いま、いっぱい、ある。