可愛くないから、キミがいい【完】





とりあえず薬局のレジ袋から、お風呂に必要なものだけを取り出してしまう。和泉しゅうのいない間にお風呂を済ませてしまいたかった。


ほとんど見ず知らずの人のお風呂を借りるなんてやはりそわそわしてしまうけれど。そろそろ状況を受け入れなければ、と、改めて、部屋を見渡してみる。

だけど、やっぱりそわそわは収まらなくて、溜息を吐いてしまった。


はる兄さんは、彼女の着替えを借りてもいいみたいなことを言っていたけれど、さすがにクローゼットを勝手に開くのは気が引けて、薬局で買ったものだけをもってそのままお風呂場へ向かった。



髪を洗っているときに、扉の向こうで物音がしたから、途中で和泉しゅうが帰ってきたことは分かった。

バスタオルとドライヤーだけ勝手にお借りして、スキンケアだけ済ませた後、部屋へ戻る。


もともと化粧は全然濃くないけれど、ノーメイクのお風呂上がりの姿を和泉しゅうに見せるのがなんだか嫌で、扉を中途半端に開いて中をのぞくと、和泉しゅうはローテーブルの前で胡坐をかいてテレビを見ていた。

もうすでに、自分の部屋みたいに寛いでいる。


「あがったけど、」と声をかけると、その顔がこちらに向く。


化粧をしていようが、してなかろうが、和泉しゅうの視線の温度は変わらなくて、気にしすぎた自分が馬鹿みたいだと思えてきた。



パタンと後ろ手で扉をしめて、完全に部屋へ入り、和泉しゅうから少し離れた所に座った。