可愛くないから、キミがいい【完】






「まあ、もう、しょうがないから、遠慮なく使わせてもらうか」

「……うん」

「猫、まだかぶってんの?」

「和泉くんには関係ない」



さっきとは違うふわふわとした緊張感に包まれてしまっているだけだ。

相手は、和泉しゅうなのに。



ふは、と、いたずらっぽく笑う彼は、もう状況をのみこんだのか、お昼と同じような雰囲気に戻っていた。

私だって、順応性が高いはずなのに、全然発揮できていない。



「つーか、俺、腹減った。このへんに、一個コンビニあったよな」

「確かね。あんまり、分からないけど」

「買い行くけど、なんか欲しいものあるなら言えば」

「みゆは、別に、」

「あ、そう」

「だけど、……スープ、あったら買ってきてよ。具だくさんの、インスタントじゃないものがいい。他は、色々」

「色々って分からん。あとで、絶対、文句言うなよ」

「言わないもん」



じゃあ、広野は留守番な、と財布をもって立ち上がった和泉しゅうに、「お風呂、先、みゆが入っててもいい?」と尋ねる。

和泉しゅうは、譜面台の上の鍵を手に取り、「好きにすればいいだろ」と言って、すぐに部屋を出ていってしまった。



部屋に、ひとりになった瞬間に、完全なノーメイクの姿は見せるべきなのかとか、お洋服はどうするべきなのかとか、それ以外のあれこれが、頭の中で溢れてきてしまう。


恋に落とそうとしていない。

可愛く見せようと計算をしようにもできない。

何が正解か、分からない。


そういう相手の方が、案外、色々と難しくて、不安になってしまうみたいだった。